執筆作業

小説を投下する場所

うんこマン・レジェンド 39話目 協力者

誰になりすますか。正直なところ難題だ。薬袋の浮気写真を撮るのはさして難しくはなさそうだが、井原の交友関係を探るのは至難の技だ。実名顔出しでSNSをやっているから交友関係自体はわかる。だが距離感まではわからない。井原にあまり近しい人物だと頻繁に連絡を取り合うだろうから、おそらく会話に齟齬が生じてなりすましがバレる。

逆に近しくなさすぎる人物だと連絡を取ること自体が怪しい。

それなりに近しい人物で頻繁に連絡を取り合わない仲の人間は……年上の人間が当てはまるだろうか。

井原はバスケ部所属だったな。瀬元と付き合いはじめたのは中学2年くらいからだ。

中学1年の時に憧れの先輩がいた可能性はあるだろう。ネットを調べればうちのバスケ部に所属していた上級生の名前くらいはわかる。

しかし男の先輩が女の後輩の彼氏の浮気写真を送ってくるシチュエーションってのもわからない。憧れの先輩がそんなことしてきたら一瞬で幻滅するだろう。余計なお世話すぎるし、何より後輩の交際関係を把握してるのがキモすぎる。何より憧れの先輩は誰なのかは俺にはわからん。

どん詰まりだ。頭をスッキリさせるためにエナジードリンクをドラッグストアに買いに行くとするか。

ドラッグストアに行くと瀬元がいた。お前このドラッグストアに居ることが多くないか?

ドラッグストアの店員さんと新しい恋でもはじめるつもりか。いつまでもうじうじとして未練を断ち切れないよりはまだ健全だがな。

サプリコーナーにいつまでもいる瀬元を尻目にエナジードリンクを選ぶ。ビタミンCとコラーゲンとイミダペプチドが入ってるコレにしよう。

そうだ。ちょうどいい。瀬元に参考意見を聞くとしよう。店内で暴行を働くことはあるまい。本当の目的はぼかして井原の交友関係についてそれとなく聞こう。瀬元の背後に背中合わせで立つ。

「井原、浮気されてるぞ」

多少驚かすつもりで言ったのだが、返ってきた反応は……。

「知ってる」

だった。そりゃあんだけ女喰ってりゃ自然と情報は入ってくるよな。

「井原は知ってるのか?」

少し黙った。

「多分知らない」

多分か。まぁ浮気してるのは気づいてても知らないフリをしてる可能性もあるか。身籠ってるわけだし。しかしやけに素直に会話してくれるな、瀬元よ。いじめの主犯格という立場が無ければただのクラスメイトとして話すのは問題なしか。どうやら根本から嫌われているわけではないようだ。俺はいじめられてたことを水に流す気はさらさらないが。

「浮気現場を押さえた写真を井原に暴露していいか」

「好きにしろ」

ずいぶん投げやりだな。もう井原のことは諦めたのか?

「お前なんのつもりなんだ? 愉しいのかソレ」

当然の疑問だ。愉しい……わけではないがまぁそういうことにしておくか。

「愉しいよ〜。幸せな奴がどん底に落ちるのを見るのはな。誰だろうと例外はない」

「ふーん。じゃあ薬袋がどん底に落ちるところを見るのもか?」

かかった。

「薬袋をどん底に落とせる方法があるなら知りたいね。まぁ浮気の一つや二つは甲斐性のうちかもしれないし、井原に俺が暴露しても信じてもらえない可能性大だがな」

しばらくの間、瀬元は黙った。

ゴソゴソと音がする。なんだ? 振り向くと瀬元はスマホを取り出していた。

「あの人のアカウントのIDとパスワードを教えてやる」

何段階かすっ飛ばして話が進んだ気がした。まさか俺の腹積もりがバレてる?

「あの人って誰だよ」

「井原の先輩で俺の……兄貴」

おいおい。兄貴のアカウントを勝手に他人に教えていいのか? 訝しむ俺。その顔を見て瀬元は、

「捨て垢だからとくに問題ない」

と補足する。

「井原と相互フォローしてるアカウントだ。暴露したいならこのアカウントからにしろ。すんなり信じてもらえるだろうよ」 

……怪しいくらい協力的だ! どうしたんだ一体。

「どうしてそこまで……」

「案外察しがついてると思ったが、まだ知らないのか?」

何がだ? 首を傾げる。

「……薬袋は女をヤク漬けにしてる。井原は多分まだヤク漬けにはされてない。妊娠の話を聞いて確信したんだ。だけどもう時間の問題かもしれない」

現実味のない話を急にされたが、おそらく事実だ。なるほどそういう裏があったのか。

「井原の目を覚まさせてくれ……頼む」

なんか重いな。好都合だが。