執筆作業

小説を投下する場所

うんこマン・レジェンド 29話目 死角

網膜がパンチの衝撃で剥がれたってことだろうか……聞いたことはある気がするがどんな感じなのか想像がつかない。

「網膜剥離はボクサーにとっては選手生命を断ち切られたのとほとんど同じだよ。今は手術があるから多少は回復するけど、ボクサーに不可欠な視力と視野の両方を失うんだ」

しかし薬袋はそこまでのハンデを背負っていながら素人には喧嘩で負ける気配がない。

「片目って言ってましたけど、どっちの目かわかります?」

うーん……と少し悩む素振りを殴られ屋は見せたが、やがて首を横に振った。

「そこまでは知らないな。俺も又聞きだし。片目だけ視力が著しく落ちたってところまでだ」

むぅ。どちらの目が薬袋の死角かわからなければあまり意味はない。でもこの情報は希少だ。感謝しなければ。

「幼馴染の女子にそれとなく話してみます。薬袋にそんな事情があったとは……デリケートな問題ですから幼馴染には本人が話すまで黙っておくように言い含めておいた方がいいっすよね……」

「まぁそうだな」

ピー! 殴られ屋のスマホのタイマーが鳴った。第三ラウンド終了の合図。

殴られ屋に「ありがとうございました」と言って、もと来た路地を引き返して表通りに出た。

表通りに出るとラブホ街である。ふと道の反対側を見るとさっきまで話題にしていた男の姿があった。

薬袋衛吉。俺の血便の原因。

女を連れて歩いている。俺の学校の女子だろうか? 化粧でよくわからない。

ラブホテルに入っていった。清々しいくらいのモテっぷりだな、吐き気がする。

俺はラブホ街を出て駅の方に向かった。今日得た情報は有効に使わねば。どう使えば最も効果的か。

俺は思索を巡らせた。夏休みはまだ二日目だ。考える時間は山ほどある。