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うんこマン・レジェンド 12話目 透明人間の推理

あのヤローはAとBくらいまではしていたと思うが、おそらく薬袋の奴はAとBを手早く済ませてCまで一気に行っちまったのだろう。高校生になるまで清い関係を保とうとしていたのが裏目に出たわけだ。ご愁傷様である。
でも何で薬袋と井原がそういう関係だとバレたのだろうか? 一般論としては人目を忍んでやるもんだろそういうことって……。彼氏持ちだし。
俺は一度透明人間の気分で窓側の女子たちをじっくり観察することにした。過集中の状態でたまにやることの一つである。俺は自閉症なので他人の感情を図り損ねることがある。ジロジロ見られて気持ち悪いと思われてもやらねばならない必須スキルなのだ。
まずパッと見ると嫌悪の表情をしている女子が目立つ。嫌悪している女子の視線はあのヤローではなく薬袋の方に向けられていると思う。次に嫌悪の表情が目立つ女子の顔面偏差値を平均すると……よく言えば地味で、悪く言えばブスのような……気がする。あまり化粧していない女子という括りでもいいな。
軽蔑の表情をしている女子が六名ほど。綺麗どころの女子で化粧はバッチリ、スクールカーストの上位層の男子共とカップルになってるリア充女子だな。呆れているのかスマホをいじったり、手鏡を出して化粧直しをしたりしている。さっき「みっともな……」って言った女子はこの中の一人だ。あのヤローの必死すぎる椅子攻撃を華麗に回避している薬袋の方がみっともないとは考えづらい。
みっともないのはあのヤローの方だろう。
爪を噛んでイライラしている女子が一名。表情は……嫉妬か? さっき「変態じゃん」って言った女子だ。睨めあげている目が三白眼になってる……怖い。視線は薬袋の方だな。なぜそこまで怒っているのか不明だ。勉強ができるし責任感も強い感じの女だったはずだ。俺はクラスの女子の名前をほとんど覚えてないから名前はわかんないけどな。
ん?
「変態じゃん」と言った声に聞き覚えがあるような……最近どこかで……。
アハ体験。脳汁が溢れる。あの時か。責任感の強そうな声。怒りの感情を含んだ声。
個室の中で聞いた女の声だ。女子トイレから逃げ出せたのはこの女子が男子トイレの方に見張りの女子を呼んだからだ。男子トイレでは何かの騒ぎがあって俺は逃げおおせた。
しかしそこまでだ。俺の観察眼と推理力ではここまでが限界である。小魚の骨が喉元に引っかかって取れない感じに似てる。
俺は女の感情の機微に疎い。脳に欠陥があるからだ。表情を観察して長年学習した結果、人の感情を表情からぼんやりと類推できるようになっただけに過ぎない。一体何があってそこまで薬袋を睨むのか。表情は嫉妬だ……薬袋に特別な感情を抱いている? でも薬袋は変態……どゆこと?
推理がどん詰まりになった。というよりは想像の範囲外だ。俺が異性について深い知識を有していないために気持ちがよくわからないのだろう。後日、自分の推理が核心に近づいていたことを知るのだが、また別の話だ。
パンと何かが弾ける音がした。薬袋の渾身のストレートがあのヤローの顔面を捉えた。あのヤローは椅子を振り上げたまま、真後ろにぶっ倒れた。ノックアウトだ。