執筆作業

小説を投下する場所

うんこマン・レジェンド 44話目 殴られ屋の同伴

最初はなんでここにいるんだと少し訝しんだが、ラブホ通りの裏路地で商売しているから別段おかしくはないか。

「いやある人を尾行してたんですが……見失いまして……」

殴られ屋は目を丸くしている。

「なんか探偵みたいなことをしてるんだな」

探偵ね……フィクションじゃない実際の探偵は浮気調査が仕事の八割を占めるらしいし、的を射た発言だな。

「やっぱり浮気調査なのか?」

やっぱり? 俺は首を傾げる。

「この前の薬袋衛吉の話。なんか嘘くさい話で薬袋の素性を探ってただろ。誰かに依頼されてる?」

……どうやら都合のいい勘違いをしてくれているようだ。完全に自分のためだが、誰かに依頼されて薬袋を追跡していると勘違いしているようだ。しかしこの前の架空の幼馴染の話は嘘だと見破られてたか。だが今はそれよりもだ。

「薬袋を見かけたんですか? どっちに行ったか知ってます?」

殴られ屋は少し迷うような素振りをした後、

「噴水のあるラブホのあたりで見かけたよ。人を待ってる感じだった。やっぱ浮気調査なの?」

勘違いしてくれているのでありがたく利用させてもらう。

「浮気調査を薬袋の彼女から依頼されてるんです。多分十股はしてる感じですけど、中学生の浮気を本当の探偵には依頼できないから俺みたいな中学生の探偵がいるってわけです」  

「十股って……」

殴られ屋は若干唖然としている。噴水のあるラブホっていうとラブホ通りの奥に位置する。走って急ごう。

「じゃあまた今度。浮気現場を写真に収めないといけないので」

俺は走って噴水のあるラブホの方向に向かう。なんだ? 後ろから足音。振り返ると殴られ屋が走って追いかけて来ていた。

「ちょっと俺も一緒に行かせてくれない? わりと気になるから」

えー。ちょっと困るが。

「邪魔しないならいいですけど……」

どうせ殴られ屋を振り切れないのでしぶしぶ了承した。

うんこマン・レジェンド 43話目 殴られ屋との再会

薬袋は薬局を廻った後は家に一旦戻ったようだ。発信機の示す位置情報は意外と我が家と近い位置にある。学区内だから当然ではあるが。もし浮気の動きがあるとすれば夜か。

歓楽街のラブホ通りに向かうなら電車で追いかければいい話だが、自宅が浮気現場なら近づきようがない。多分防犯対策がなされているから近づいたらバレる。女をヤク漬けにしているならむしろそっちの方が可能性は高い。一度ヤク漬けにして依存性ができてしまえば、女は言うことを何でも聞くだろう。わざわざムードのある場所に向かう必要はない。

浮気現場を撮るカメラはスマホについているカメラを使用するつもりだが、夜の住宅地のような薄暗い場所では撮影しにくい。フラッシュは不可だからな。明るい歓楽街の方に向かってくれないと困るぜ。最寄り駅の近くのファミレスで俺は待機することにした。

数時間後。

夜の19時。薬袋は動き始めた。バイクに乗って……歓楽街の方へ。駅のホームに急ぎ、歓楽街行きの電車に乗る。ちょうど帰宅ラッシュ時なのでギュウギュウの満員電車だ。

20分ほど電車に揺られて歓楽街に到着。薬袋のバイクについている発信機の信号はラブホ通りの方に向かっている。急いでそちらに向かう。

バイクを発見。駐車場に停めてある。

さっきまで信号は動いていたのでそこらへんにいるはずだ。女と待ち合わせている場所は……どこだ。最悪待ち合わせがラブホの中だったらどうにもならん。ただそういうラブホは料金が割高だから利用しない気がするが……確信はない。

困った。やっと掴んだチャンスなのに……。

途方にくれていると後ろから肩を叩かれた。

びっくりして後ろを振り返る。

「何日かぶりだね。なんか困ってるみたいだけど……どうかしたの?」

殴られ屋だった。

 

 

 

 

うんこマン・レジェンド 42話目 予想的中

姉貴がSNSで友達に呼びかけしてさらに三日後。夏休み十日目。

近辺の薬局を見張れば薬袋は現れるという俺の予想は当たった。

何軒か薬局をはしごしている茶髪の目撃証言が出てきたのだ。俺は自転車で近辺の薬局まで急行する。

姉貴の友達が薬局の駐車場にいた。この人たちは初めて会ったな。やたらゴツくて背の高い男と胸の大きな背が低い女性。カップルだろうか。俺の顔はすでに知っているらしく手招きしている。

「こっちだよ〜」

と女性の方がバイクを指差す。夏休み四日目に暴走していた薬袋のバイクだ。ネット通販で購入した発信機に瞬間接着剤を塗り、バイクの真下にくっつける。これでスマホで追跡できる。

「薬局に入って何分くらい経ってます?」

「10分くらいかな〜」

 それならそろそろ出てくるな。さっさとトンズラするとしよう。その前に。

「ありがとうございます!」

俺は頭を下げる。

「こっちもバイト代貰ってるから別に礼はいらないぜ」

男の方がそう言った。

「薬局を三時間見張れば時給1000円。おいしい話だったから一枚噛ませてもらっただけだ」

一日三時間で3000円。薬局は近辺に十軒あるから一日で三万円は消える。姉貴は身銭を切ってくれたらしい。姉貴は三万円を自分の懐に入れずに友達に人探しのバイト代として支払ったわけだ。

姉貴の友達は大学生が多いから……小遣い稼ぎだろうな。あとで姉貴には感謝の一報を入れよう。 

うんこマン・レジェンド 41話目 さらば諭吉

三日経った。夏休み七日目。薬袋とは全く遭遇できずにいる。
夜の歓楽街のラブホ通りに行ってみたりしたが、殴られ屋と会った日に浮気現場を目撃したのはほとんど奇跡だったらしい。
日課のトレーニングを続けながら色々考えた末に薬袋が使っている薬物が薬袋の足取りを追う手がかりにならないかと思った。
推測ではあるが、薬袋は違法な薬物を使ってはいない。いわゆる覚せい剤やら大麻やらは使用していないと思う。もしヤクザなどの後ろ盾があるとしても、警察の介入は避けられないからな。ヤクザと繋がりがあろうが、最終的にトカゲの尻尾切りをされるのがオチだろう。
実は薬局で買える薬にも麻薬成分は微量とはいえ含まれている。家庭麻薬と言って麻薬成分を一パーセント以下にした薬は所持と販売が可能だ。しかしたとえ一パーセント以下でも最適な服用量の六倍から十倍を大量服用すれば麻薬に近い効果が得られる。
おそらくだが薬袋はネット通販と薬局を利用して合法的にトリップできる薬を入手しているのではないか。ただし家庭麻薬に該当する薬は大量服用による悪用を避けるために薬局でもネットでも一人一セットしか買えないようになっている。
だからバイクに乗って薬局を何軒も廻っている可能性が高い。
俺は発信機をネット通販で購入した。
近辺にある薬局は裏手のドラッグストアを合わせて十軒ほど。
多少悩んだが姉貴に連絡を取った。姉貴は友達がとにかく多い。姉貴の友達の中に近辺の薬局で働いている人がいるかもしれない。
姉貴に人探しを依頼すると……こう返された。
「SNSで呼びかけてみるけど……前払いな。三万円」
俺の諭吉が……。

うんこマン・レジェンド 40話目 冷静

それにしてもヤク漬けって……麻薬の売人と繋がりがあるのか? それなら薬袋を警察に突き出せばいい話じゃねーか。

ドラッグストアから家に戻った俺は瀬元の話をどうにも完全には鵜呑みにできずにいた。百歩譲ってヤク漬けにされているのは……事実かもしれない。あの異常とも言えるモテっぷりに説明がつく。薬袋はイケメンとはいえあのスピードで次々と女が陥落していくのは不自然だからな。

とはいえ井原が流産してしまうほどの強力な薬物などたかが中学生ごときに簡単に手に入るだろうか? 答えは否だ。

もし危険ドラッグだったら女子たちの異常行動が確認できるはずだし、薬袋に惚れるかは微妙なところである。

単に瀬元の思いこみな気がした。ヤク漬け=流産という図式が出来上がってしまっているのかもしれない。つーか願望か。井原と今後寄りを戻せた時に薬袋の子どもを産まれるのが嫌だからだろうな。無意識に拒んでいるのだ。男の悲しい性だなぁ。

家のデスクトップパソコンでさっき教えてもらったIDとパスワードでSNSのアカウントにログインしてみる。

瀬元和正。瀬元の兄貴。ネットでバスケ部に所属していた上級生の名前調べたが、その中にあったな確かに。

井原との交流が二年前までは残っていた。井原の発言がなんというか……色々と初々しいな。あの女王様にもこういう時期があったのか。

しかし瀬元和正の中学校の卒業時期と同時にパッタリと井原との交流が途絶えている。というか全く発言がない。なるほど確かに捨て垢だな。

だが井原は確かにこのアカウントをまだフォローしていた。このアカウントから井原のアカウントもフォローしてある。 

二年以上発言していないアカウントで話しかけても怪しまれないだろうか? まぁ匿名で話しかけるよりはマシか。

とりあえず薬袋の浮気写真を用意しなければ。 

うんこマン・レジェンド 39話目 協力者

誰になりすますか。正直なところ難題だ。薬袋の浮気写真を撮るのはさして難しくはなさそうだが、井原の交友関係を探るのは至難の技だ。実名顔出しでSNSをやっているから交友関係自体はわかる。だが距離感まではわからない。井原にあまり近しい人物だと頻繁に連絡を取り合うだろうから、おそらく会話に齟齬が生じてなりすましがバレる。

逆に近しくなさすぎる人物だと連絡を取ること自体が怪しい。

それなりに近しい人物で頻繁に連絡を取り合わない仲の人間は……年上の人間が当てはまるだろうか。

井原はバスケ部所属だったな。瀬元と付き合いはじめたのは中学2年くらいからだ。

中学1年の時に憧れの先輩がいた可能性はあるだろう。ネットを調べればうちのバスケ部に所属していた上級生の名前くらいはわかる。

しかし男の先輩が女の後輩の彼氏の浮気写真を送ってくるシチュエーションってのもわからない。憧れの先輩がそんなことしてきたら一瞬で幻滅するだろう。余計なお世話すぎるし、何より後輩の交際関係を把握してるのがキモすぎる。何より憧れの先輩は誰なのかは俺にはわからん。

どん詰まりだ。頭をスッキリさせるためにエナジードリンクをドラッグストアに買いに行くとするか。

ドラッグストアに行くと瀬元がいた。お前このドラッグストアに居ることが多くないか?

ドラッグストアの店員さんと新しい恋でもはじめるつもりか。いつまでもうじうじとして未練を断ち切れないよりはまだ健全だがな。

サプリコーナーにいつまでもいる瀬元を尻目にエナジードリンクを選ぶ。ビタミンCとコラーゲンとイミダペプチドが入ってるコレにしよう。

そうだ。ちょうどいい。瀬元に参考意見を聞くとしよう。店内で暴行を働くことはあるまい。本当の目的はぼかして井原の交友関係についてそれとなく聞こう。瀬元の背後に背中合わせで立つ。

「井原、浮気されてるぞ」

多少驚かすつもりで言ったのだが、返ってきた反応は……。

「知ってる」

だった。そりゃあんだけ女喰ってりゃ自然と情報は入ってくるよな。

「井原は知ってるのか?」

少し黙った。

「多分知らない」

多分か。まぁ浮気してるのは気づいてても知らないフリをしてる可能性もあるか。身籠ってるわけだし。しかしやけに素直に会話してくれるな、瀬元よ。いじめの主犯格という立場が無ければただのクラスメイトとして話すのは問題なしか。どうやら根本から嫌われているわけではないようだ。俺はいじめられてたことを水に流す気はさらさらないが。

「浮気現場を押さえた写真を井原に暴露していいか」

「好きにしろ」

ずいぶん投げやりだな。もう井原のことは諦めたのか?

「お前なんのつもりなんだ? 愉しいのかソレ」

当然の疑問だ。愉しい……わけではないがまぁそういうことにしておくか。

「愉しいよ〜。幸せな奴がどん底に落ちるのを見るのはな。誰だろうと例外はない」

「ふーん。じゃあ薬袋がどん底に落ちるところを見るのもか?」

かかった。

「薬袋をどん底に落とせる方法があるなら知りたいね。まぁ浮気の一つや二つは甲斐性のうちかもしれないし、井原に俺が暴露しても信じてもらえない可能性大だがな」

しばらくの間、瀬元は黙った。

ゴソゴソと音がする。なんだ? 振り向くと瀬元はスマホを取り出していた。

「あの人のアカウントのIDとパスワードを教えてやる」

何段階かすっ飛ばして話が進んだ気がした。まさか俺の腹積もりがバレてる?

「あの人って誰だよ」

「井原の先輩で俺の……兄貴」

おいおい。兄貴のアカウントを勝手に他人に教えていいのか? 訝しむ俺。その顔を見て瀬元は、

「捨て垢だからとくに問題ない」

と補足する。

「井原と相互フォローしてるアカウントだ。暴露したいならこのアカウントからにしろ。すんなり信じてもらえるだろうよ」 

……怪しいくらい協力的だ! どうしたんだ一体。

「どうしてそこまで……」

「案外察しがついてると思ったが、まだ知らないのか?」

何がだ? 首を傾げる。

「……薬袋は女をヤク漬けにしてる。井原は多分まだヤク漬けにはされてない。妊娠の話を聞いて確信したんだ。だけどもう時間の問題かもしれない」

現実味のない話を急にされたが、おそらく事実だ。なるほどそういう裏があったのか。

「井原の目を覚まさせてくれ……頼む」

なんか重いな。好都合だが。

 

 

うんこマン・レジェンド 38話目 悪企み

思いついたのは井原を唆すことだった。

薬袋の身辺の情報はネットで探しても無駄だった。SNSをそもそもやっていないか、ニックネームでやっているのだろう。女を取っ替え引っ替えしてれば自然とネットリテラシーも高くなるか。ヤバい女ならネットストーキングしてくるからな。

だが井原は違う。顔出し実名でSNSをやっており特定は容易だった。知り合いのみの限定公開にもしていない。

流石にメアドまではわからない。だがSNSのダイレクトメッセージで連絡は取れる。

作戦としてはまず薬袋の浮気写真を撮ってそれを偽名で井原のSNSに画像を添付して送る。

井原がまだ浮気の事実を知らなければ井原は薬袋を問い詰めるかもしれない。

だが薬袋はシラを切り倒すだろう。

続いて薬袋に酒を飲ませるなりするように偽名で指示をする。

井原に近しい人物になりすます必要があるのが難点だ。不審に思われたら意味がない。

寝ている薬袋の親指でスマホの指紋認証を解除して井原に盗難防止アプリをインストールさせる。

近しい人物になりすました俺は薬袋に不審な動きがあったら知らせると言って盗難防止アプリのパスコードを井原から教えてもらう。

ここまでこれば薬袋の情報は全て筒抜けになったと言っていい。

デスクトップパソコンでいくらでも薬袋のスマホの中を覗くことができる。

連絡先の情報さえ入手できれば薬袋の仲間を割り出すことも可能だろう。

薬袋の浮気写真は歓楽街のラブホ街に行けば撮れるだろうか。殴られ屋と会った日に偶然遭遇したのに浮気現場を撮影していなかったのが悔やまれる。

井原に怪しまれないでなりすます人物を誰にするかも重要だ。これが悪企みの明暗を分ける。