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執筆作業

小説を投下する場所

うんこマン・レジェンド 19話目 姉貴の帰宅

夏休み二日目。朝起きると意外な人物が帰宅していた。我が姉貴である。

ソファに座りながらニュース番組を見ている。

現在午前七時三十分。深夜に帰宅したのだろうか。姉貴は市内の繁華街の近くのマンションに住んでいる。職場と近いからだ。元SMクラブの女王様にして現ポールダンサー。夜のお仕事に就いている。もっともSMクラブの方は三ヵ月足らずでやめたらしいが。姉貴は高校卒業してからすぐに夜の仕事に就いた。両親の反対を押し切って家を出た。そのせいで両親とは未だ険悪な仲だが、たまに実家には帰ってくる。

そう帰ってくる……つまり男にフラれた。

やべーよ。なんかまた面倒くさい要求されるよ。

戦々恐々としているとテレビを見ている姉貴が怒声を発する。

「んだよ! 顔はイケメンだからいいじゃねーか! ちょっとわたしより背が低いからっていじけやがってー! 何が背の高い男と付き合えば? だ! 背だけ高い男は好みじゃねーよ……なんでだよ……ウッウッ」

途中から泣き始めた。ジャニタレの映像とフラれた彼氏がシンクロしたのだろうか? どうやら今回は身長が高いのを理由にフラれたようだ。たしかフラれた理由では二回目だ。しかし姉貴がフラれるのも十回を超えたか。今回で十一回目。

用を足すためにトイレに行こうと思ったら、ソファに座っていた姉貴が急に立ち上がる。俺の傍を通り抜けてトイレに直行。何事かと思ったら「オエー、ゲップ」と便器に嘔吐する音が聞こえた。ソファの前のミニデスクを見ると酒瓶が二つ転がってる。床には空のアルミ缶が5個ほど。ヤケ酒だな……。

バッターンと便所のドアが開く。音に驚いてそちらを見ると姉貴が俯いたままこちらにゆらゆらと近づいてくる……背が俺より高いから怖いんですが。

「ね〜プレミアムロールケーキ食べたい買ってきて」

うわ、すごい酒クセェ。俺の金で?って聞きたいが、それを言うと姉貴はマジギレもしくはマジ泣きしそうなので……。

「はい、プレミアムロールケーキ買ってきます……」

と仕方なく言う俺。

 

 

うんこマン・レジェンド 18話目 ナワバリ

夏休み一日目。

7月下旬だが茹だるような暑さだ。昨日の無茶のせいで軽い筋肉痛がする。だが安静にしているよりも動いた方がいいだろう。朝一で低酸素マスクをつけてランニングをして五キロメートル走った。まだかなりキツイが徐々に慣らす。心肺機能と体力をつけることが目的だが、別にマラソンを走るわけでもない。長い距離を走るよりは五キロメートルの完走タイムを少しずつ縮める方向で行こう。ケトルベル十六キログラムをネット通販で注文した。足腰の筋肉を鍛えるのと心肺機能の強化目的。体幹トレーニングであるプランクを十五分やった。クソキツイ。気分転換に公園に行ってブランコを思いっきり漕いだ。小学生ぶりだ。爽快。でも意外と怖いなコレ。身体が昔よりデカくなったせいか? しかしバランス感覚を養うには良さそうだ。日課に加えよう。

家から持ってきたとびなわを使って公園でなわとびをやる。引っかかりながら合計千回。連続百五十回くらいしか跳べない。鈍ってるな。

公園では砂場のあたりに幼児とその親がいて幼児はシャボン玉を吹いていた。楽しそうだ。

シャボン玉ってどうやって作るんだったか? スマホで調べようとしたが、直射日光が画面に当たって眩しくて見えない。後で家に帰ってから調べよう。

しかし薬袋のパンチを躱す方法も全く思いつかないが、それ以上に要求を飲んでもらえるくらいでいいから心をへし折る方法はさらに思いつきそうにない。

何せ便所飯だからな。正直に事情を話しても俺が他のトイレに行けばいいと言われるだろう。

非常識なのは薬袋の方だが、トイレを移動すればいいと言われると……不可能ではない。

だが言わばあそこは俺のナワバリなのだ。

そう簡単には譲れない。

夏休み一日目は午前中にトレーニングを終えて午後は休んだ。しかしこう暑い日が続くと困るな。熱中症と日射病対策をしなくてはならない。

うんこマン・レジェンド 17話目 哀しみの筋肉

裏手にあるドラッグストアにプロテインを買いに行った。

ソイプロテインとホエイプロテインが置いてあるところの棚に行くとあのヤローがいた。

ご安心あれ。基本的に学外では取り巻きがいない限り、こいつは絡んではこない。にしても身体が一回りデカくなってないか? やけ食いでもして太っているのかと思ったらどうやら筋肉でデカくなっているっぽい。薬袋への復讐のために鍛えているのだろうか? 元から結構ガタイはいい方ではあった。怪力とまではいかないが力自慢ができるくらい筋肉がついていたが、さらにパワーアップか。……まぁパワーだけでは薬袋には絶対に勝てないと思うが。 今のこいつよりガタイがいい柔道部の奴が薬袋のパンチ数発で即沈むのを数回目撃しているからな。

あのヤローはホエイプロテインのココア味を棚からカゴに入れてレジに並んだ。こちらには一瞥もくれない。俺よりかなり大きな背中なのに哀愁すら漂っているような気がした。今まで散々な目に遭わされてきたからアレだが、若干同情しなくもない。

俺もホエイプロテインのココア味にするか。複数のメーカーがあるから、あのヤローとは別のメーカーにするか。糖質とタンパク質+各種ビタミンが混合してあるタイプか、タンパク質と各種ビタミンのみのプロテインか迷うな……。

よし、糖質とタンパク質+各種ビタミンを混合しているタイプを買おう。あのヤローのようなパワーファイターになるつもりはないが、糖質と一緒にタンパク質は摂取した方が筋肉がつきやすい。プロテインを飲んだら今日は早めに寝るとしよう。筋肉は就寝中に発達するからな。

 

 

 

 

 

うんこマン・レジェンド 16話目 心はうんこでできている

いきなり五キロメートルのランニングはキツかった。ロクに運動してない人間が低酸素マスクまで着けてやるのは少し無謀だったか。だが一応完走しきった。一度も歩かなかった。脚が翌日に筋肉痛になる気がしたので、ビタミンCのサプリをガバっと飲む。20粒くらい。1日の目安をオーバーしているが……前に筋肉痛にビタミンCは効いたので問題ないと思う。クエン酸はあえて摂らない。乳酸は筋肉痛の素だが、筋肉を肥大させる効果もあるからだ。後はプロテインが欲しいな。ドラッグストアで買ってくるか。ドラッグストアが家のすぐ裏手にあるのはいいことだ。

俺の見立てでは薬袋はかなりタバコを吸っていたので、おそらくボクシングを今はやっていないのではないかと思う。しかしだ。たとえボクサー崩れでもあの鋭いパンチを数発繰り出されれば瞬殺だ。素人は避けられずに終わる。

あの後に調べてわかったのだが、動体視力の良さや反応速度の速さでボクサーのパンチは避けれるほど甘くはないらしい。プロボクサーは重心移動などの予備動作や肩の動き、呼吸音などの情報からパンチのタイミングを察知し、さらに長年の試合の経験からどこに打ってくるか即座に見極める。それ以前にフットワークやジャブなどの牽制でなかなか打たせないようにする技術を習得しているようだ。

ボクシングジムに通うべきだろうか。いや、生兵法は大怪我の元だ。何か別の方法を考える必要がある。

足腰の強さと心肺機能、体力の向上が目下の目標であるが、薬袋のパンチを躱す秘策を夏休みが終わるまでに思いつく必要がある。

もし仮に薬袋に「昼休みの間は男子トイレを女子と使わないで下さい」と土下座したら、別の場所で女子といやらしいことをおっぱじめるだろうか。この軽い頭を地面に擦りつけて解決するならいいのだが。ちなみに校内の公序良俗など俺の知ったことではない。ただ便所飯を静かにしたいだけ。他に困る人間がいるとかは知らない。とはいえ高確率で却下されるか、全く話を聞いてもらえないで終わるだろう。

要求を飲んでもらえるまで薬袋の心をへし折る必要があるのだ。

 

 

 

 

うんこマン・レジェンド 15話目 決意

血便は夏休みの直前まで三週間以上続いた。
なんかヤバい病気じゃなかろうな……と思ったら夏休みがあと三日に近づいたら血便は治った。やはりストレスか。
ストレス源は明白であるものの、不可思議ではあった。
中学の時点では俺には好きな女子がいなかったからだ。そりゃいやらしいことに関してネットで調べて知ってはいたものの、異性との関係には非常に疎く。そもそも友達すら一人もいない俺だ。小学生の頃に「君はいつも一人だね……」と言われたことを思い出した。一体誰に言われたんだったか。一人が好きだからまぁいいが。
ストレスを取り除くには薬袋に昼休みに静かにしていてもらわねばならない。他の時間に女子と授業をフケるなりして男子トイレに行くのは構わない。井原にバレるからやらんのだろうが。
夏休みが終わったらまた血便生活に戻るのは嫌だ。対処しなくてはならない。薬袋が学校をいじめを行えない環境に変えてくれたことに感謝はしているが……俺は俺の健やかなる便所飯ライフを守るために決意した。夏休みの間に身体を鍛えよう。薬袋に勝てるとはハナから思ってなかった。現状足りないのは足腰の筋力と心肺機能、そして体力。実はボクサー特有の早いパンチだったが、俺にはあのパンチが見えていた。過集中のせいだろう。動体視力を鍛えれば見切れるはずだ。反射神経の良さも無論必須。
ネットで調べれば色々と情報が出てくるのでありがたい。
俺はネット通販で低酸素マスクを購入した。ランニングシューズは家にあるヤツを使おう。
時間は有限である。終業式の日、半日で家に帰ってきてから、俺は低酸素マスクを着けてランニングシューズを履いてランニングをはじめた。まずは五キロメートルからだ。

うんこマン・レジェンド 14話目 血便

殴る蹴るなどの物理的暴力と陰口や暴言などの精神的暴力のどちらがキツいかと言えば、物理的なダメージを受ける暴力の方がはるかにキツいと最近までは思っていたのだが……考えを多少改めるべきだと思った。
薬袋は井原という美少女だけでは飽き足らず、他の女子にも手を出しているようだった。
彼女面した井原はまだ気づいていないようだが、逆鱗に触れるのは時間の問題な気がする。
クラスの女子が薬袋に喰われているのに気づいた男子もいるようだ。大抵顔色が悪い。大方、片想いしていた女子が急に色気づいてるのと薬袋が馴れ馴れしく片想いの相手の身体に触っているのを目撃してしまったからだと推察する。
薬袋はなかなか慎重で綺麗どころの女子には手を出す様子はなかった。井原と繋がりがあるカースト上位の女子だからだろう。
磨けば光る女子はいるもので、地味女子の中でもおそらくカースト中位辺りの男子から「俺だけはこいつの良さがわかる……」「俺だけがこいつを愛せるんだ!」とか気持ち悪いことを思われてるであろう……パッとしない女子ばっか狙った。可哀想に。誰がとは言わんが。
俺がなんで知っているのか……は言わなくてもわかるな。俺の昼休みの時間は便所飯タイム兼薬袋のベッドヤクザタイムになった……いやトイレヤクザか。
しかしなんでいつも同じトイレでいやらしいことをおっ始めるのかと思ったら、別に人気のないトイレを狙っているのは俺だけではないからというごく単純な理由だった。
タバコを吸うのは要は下見だったわけだ。
普段パッとしない女子たちの嬌声が聞けるのは……幸運なのか? いや、俺は平和に穏やかで静かな便所飯がしたいなぁ! と心底思った。俺の俺自身が情けないことにその意思に反旗を翻していたが……。
薬袋はクラスのまとめ役になることはなく、担任がある程度の秩序を保っていた。
夏休みに突入するまでにハーレムでも作るつもりだろうか……。
個室の中で身を潜めて薬袋と女子が出て行くのを待った。昼休みの終わり時間ギリギリまで出れないが仕方ない。気配がなくなった。出ていったようだ……気が緩んだ。排泄。ケツを拭かねば。トイレットペーパーで拭く。拭いた紙をふと見ると真っ赤だった。なんで? どうやら俺は無自覚なストレスを感じているようだった。

うんこマン・レジェンド 13話目 変革と変態

いじめの主犯格であるあのヤローが自分の彼女を寝取られたあげく、喧嘩を挑むも薬袋に完膚なきまでに叩き潰されたニュースは瞬く間に学校中に広まった。あのヤローはこの学校での権力をほぼ失った。

井原はすでに薬袋にべた惚れのようで薬袋の言うことしか聞かないようになっており、薬袋はいじめをするよりもっぱら女と遊ぶ方が好きなようで……よって井原によるいじめの隠蔽工作はなくなった。スクールカースト上位のいじめっ子達は女子たちの口封じができないのと担任をスクールカーストの内部に維持することができなくなり、身動きが取れないようになった。

あのヤローはしばらく登校していたが、綺麗どころの女子たちに嘲りの視線を浴びてついに耐えられなくなったのか……学校に来なくなった。

俺は平和に便所飯ができるようになり、安心して学校に通えるようになったと思ったが、一難去ってまた一難。

やはり便所飯しているトイレに薬袋がタバコを吸いにやってくるのだ。

タバコが煙たいとかは我慢すればいい話だったのだが……あの日の真実を俺は知ることになる。

いつも通り便所飯をしていると薬袋が窓際の隣の個室に入った音がした。珍しくタバコの煙の匂いがしないのでどうしたのかと思ったが、便所飯を続ける。吸わない日もあるのだろうか? 

クチャクチャとガムを噛んでいる音がした。

まさか禁煙してる? と思ったが的はずれだったことを数秒で悟る。

パタパタとトイレのスリッパの音がする。誰か男子トイレに入ってきた。

無言のまま隣の個室に入る気配……は?

一瞬思考がフリーズしかけた。どゆこと?

ペチャペチャ。何の音だ。

チュッパチャプスでも舐めてるような音がした。なんとなく嫌な予感。

しばらくするとハァハァと息遣いが荒い呼吸音。

数秒後、隣の個室がガタガタ揺れ始めた!震度1くらいだ。

あーなるほど。

あの喧嘩の発端となる時系列に俺はいた。

嫉妬の表情をしていた女が「変態じゃん」と言った理由をようやく理解する。

女が甘い吐息を漏らす。ん? 井原じゃないな……誰だ。

とりあえずトイレから出た時に鉢合わせるとマズいな。確実に気まずいだけでは済まない気がする。

俺は前かがみになりながら個室の扉を音がしないようにゆっくり開けて閉めて、男子トイレを後にした。厄介ごとは常に畳み掛けるものである。