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執筆作業

小説を投下する場所

うんこマン・レジェンド③

空になった弁当箱を横の小物置き場に置いて、ズボンとパンツを下ろして便器に腰掛ける。声がやたら低いせいでドスの利いた声に聞こえるのも俺の非社交的な性格に拍車をかけている原因ではあるなぁ……と他人事のように思った。
「ならよい。ベルフェゴールよ! 神託の時は来た! 辺獄より死者が舞い戻らん! 心して待て!」
しばし意味を考えたが、うむ。まるでわからん。そもそも悪魔であるベルフェゴールに神託を知らせる意味は? 辺獄って? 死者ってのは何かの暗喩か?  混乱が深まるばかりである。
「なぁ真田。俺がこの学校でコミュニケーションを取れてるのはお前だけだからそれなりに感謝はしてるんだが、俺にはお前の言葉がわからない……」
いやマジで。まだ数ヶ月の仲だが、言葉の意味を読み取れたことの方が少ない。「天使」とか「知的障害者」呼ばわりしない人間は真田だけだ。代わりに便器に座る悪魔扱いされているが。
「フッ、今はわからずともよい。来たるべき審判の時に自ずとわかる。たしかに伝えたぞ」
高笑いしながら足音が遠ざかっていく。男子トイレから出ていったようだ。ほっと一息つくと括約筋が緩んで立派な一本糞がメリメリッと出てきた。なかなかの快便だ。これだけの量が出たならうんこを漏らす心配は今日はする必要がないだろう。今日は運良くパンツが汚れていない。持参している替えのパンツの出番はなさそうだ。

うんこマン・レジェンド②

「ベルフェゴール!」
静寂を打ち破る女の声。男が女子トイレに入るのは罪を問われるのに、女が男子トイレに入るのは罪に問われない。代表例は大阪のオバチャン。トイレの住人としては法の下の不平等を是正してくれる政治家の出現が待たれる。ただ生憎俺はまだ十八歳ではないし、そんな公約を掲げる政治家はおそらくいない。
「ベルフェゴール、我が呼びかけに……応じよ!」
相変わらず声がでかい。演劇部に入ればいいのにな。これ以上黙っているとトイレに人が集まってきてしまう気がする。ここは昼休みの時間でも人が少ないから優雅にまったりと便所飯ができるベストトイレなのに台無しになりかねない。
「何だ中二病の少女よ」
刺さる言葉を言ってやった。
「ベルフェゴールよ! 声が小さい! 何を言ったかわからぬ!」
どうやら個室の壁を隔てているのと俺の地声が低すぎるせいで聞き取れなかったようだ。けして声が小さいわけではない。稀にある。
「何の用だ! ここは男子トイレだ! 用件は聞いてやる。 だが、用件を伝えたら早急に立ち去れぃ!」
それなりに滑舌よく地声より少しだけ高めに発声する。
「……ベルフェゴール? 何か怒ってる? うんこの途中だった?」
急に声がしおらしい感じで小さくなる。おい、単に中二病的な演技に合わせてやっただけだ。怯えるな。

「別に怒ってない。うんこはこれからだが」

うんこマン・レジェンド①

 うんこを初めて漏らしたのは幼稚園の年少の頃だったという。
 幼稚園児のうんこ漏らしは別段珍しくない。物心つく前の話なのでどう思えばいいのかもさっぱりだ。
 ただ俺は高校生になった今もうんこを漏らし続けている。パンツの中が毎度しっとりと暖かい。
 小学生の頃のあだ名は「うんこマン」、中学生の頃は「菌」、高校生になった今じゃ「知的障害者」である。
 とくに腸や肛門に機能的な障害を負っているわけではない。自閉症特有の過集中のせいでトイレに行くタイミングを逃し、気づいた時には手遅れになるのだ。
 そんなわけで俺はクラスでは「頭の足りないかわいそうな子」扱いされていた。
 俺が登校している学校は一応進学校である。うんこを漏らす原因である過集中のおかげで勉強だけはそれなりにできるのが悲しい。どうせなら養護学校に行きたかった。親は知的な遅れがないのに養護学校に行かせるのは嫌なんだろう。たしかに知的障害ではないが発達障害ではある。個人的にうんこを所構わず漏らすのは知能指数の低さより深刻だと思うのだが、両親はまるで意に介さない。
 便所飯は俺の日課だ。ちなみにいじめられているから便所飯をするのではなく、食後に排便したくなる確率が高いために便所で飯を食べるのである。この学校は頭の程度がいい学生が多い。なので中学生の時ほど積極的に俺をいじめる奴は少なくなった。新しい校舎だから便所はホテル並みに綺麗だし、過去の過酷な環境に比べればもはや天国同然かもしれない。便所飯で天国を感じる俺は人間の尊厳というものが著しく損なわれているのかもしれない。かといって「絶えず幸福になろうとあがくとけしてわれわれは幸福になることがない。」みたいな感じのことをどこかのギャンブラーが言ってたのでほどほどの幸福で満足すべきなのだ。

寂しさとは

寂しさは雪である。

寂しさが募る。

寂しさを紛らわす。

寂しさが消えない。

実は何かを失って欠乏感や空虚感を感じている状態ではないのです。

何かを失ったことでココロの中に何か別のものが入り込んできて邪魔になっている状態を指します。

ココロの中に入ってきた雪が解けるまで待っていると凍えてしまうので、人は酒で身体を温めたり、やけ食いして無理矢理熱を作り出します。

結局のところ脳内分泌物の過不足が原因なんだから運動して大量の汗をかけば治るという持論を展開する方もいます。

寂しさは雪なので人は寂しすぎると幻覚を見ます。

さながらマッチ売りの少女、もしくは遭難者。

失った人や死んでしまったペットが、目の前に浮かんでは消えていきます。

雪で凍え死んでしまわないように暖炉に火をつける必要があります。

暖炉に焚べるのはあなたの思い出です。

寂しさは欠乏感や空虚感を感じている状態ではありません。

あなたのココロの中はゴミ屋敷だったのです。

捨てられないゴミが多すぎてココロの家屋から溢れてそのせいで隙間から雪が入ってきていたのです。

愛しいゴミを燃やして暖をとりましょう。

いずれ雪が止んで暖かい季節が来ると信じて……。

 

優しさとは

優しさは糞拭き紙である。

どんな人間でも糞を垂れた後は必要になるアレだ。

糞を拭き終わったら不要になって水洗トイレに流されるアレだ。

一口に糞拭き紙と言っても質がある。

気配りは、肌触り。

親切は、紙に入ったミシン目。

紙についてるほのかに香る甘い匂いは、人柄の良さだ。

でも残念なことに糞拭き紙はどんなに上質でも糞を拭き終わったら水洗トイレに流されて終わる運命にある。薄っぺらいからな。

よく言われるが、優しいだけの男は都合のいいひとで終わる。

だってよく考えてみろ。優しさは糞拭き紙なんだぜ?糞拭き紙は絶対に糞を垂れた後に必要だが……それだけだ。

大量生産品の生活必需品。ありふれてる。

糞拭き紙を配るだけでモテると思ってるなんて、ナイフで女性を脅せば簡単にヤレると思ってる強姦魔とドッコイだ。

それでも俺は人に優しくする。いつ糞を垂れたくなるかわからんし、糞拭き紙が必要な時はいつ来るかわからない。

糞拭き紙は人の為ならず。